2026-04-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「真理の微笑」

五十二 夕食は出前で寿司を頼んだ。病院では食べられなかったからだ。 大トロも美味しかったが、ウニやいくらもうまかった。これでお酒でも飲めたら最高だったが、肝臓の数値が悪いので、医者からはきつく禁酒を言い渡されていた。 夕食の後は、風呂に入った…

小説「真理の微笑」

五十一 十二月になった。 カード型データベースソフトのβ版は各出版社などに送られて、概ね好評だった。メニューの表記間違いなどの細かなバグはあったが、データベースの根幹に関わるような決定的なバグは見つからなかった。もう少し様子を見て、来年の五月…

小説「真理の微笑」

五十 西野と遠藤が病室にいた。カード型データベースソフトのβ版ができたのだ。 私に動作の最終確認をしてもらいに来ていた。 私は細かなところまでチェックした。メニューや操作方法には、特に問題はなかった。後は、実際にデータを入力してどうかという事…

小説「真理の微笑」

四十九 二週間が過ぎた。 由香里は産婦人科の帰りに病院に寄った。十一時頃だった。病室に来る前に電話をかけてきた。 「奥さんいる」 「いないよ」 「良かった。病院の一階の公衆電話から電話しているの。すぐ上がっていくからね」 私は由香里に母子手帳を…

小説「真理の微笑」

四十八 病室に戻り、パソコンを起動し、パソコン通信のメールボックスを開く時が辛くなっていた。 メールを開くと次のようなメールが届いていた。 『隆一様 あなたが失踪した日の朝の事を思い出すのです。 あの時、わたしは何も気付きませんでした。きっとあ…

小説「真理の微笑」

四十七 カード型データベースソフトは、β版を作れるところまで来ていた。概ね、(株)TKシステムズで作っていたカード型データベースソフトを下敷きにしていたが、ユーザーインターフェイスをトミーワープロに合わせたために、メニュー構造が大幅に変わっ…

小説「真理の微笑」

四十六 火曜日の午前十一時頃に由香里がやってきた。産婦人科で診察を受けた後だと言った。 「順調よ」 「そうか」 そう言うと、由香里は内緒話でもするかのように耳元に口を寄せて「男の子だって」と言った。 「男か」 「あれが見えたんですって」 エコーに…

小説「真理の微笑」

四十五 パソコンを立ち上げると、パソコン通信ソフトのメールボックスを自然に開いていた。 『隆一様 今日は、あなたが好きだったチキンカレーにしました。祐一と二人で食べました。祐一はお代わりをしました。 あなたがいないのが寂しくてたまりません。会…

小説「真理の微笑」

四十四 九月の二十九日は、高瀬である私の誕生日だった。 毎年、私の好きなショートケーキを夏美が買ってきてくれて、祐一と三人でお祝いをした事を思い出した。だが、今はベッドの上で一人夕食を食べている。 十月になった。 しかし、猛暑は続いていた。た…

小説「真理の微笑」

四十三 リハビリを終えて病室に戻った時だった。 お腹が少しばかり膨らんでいるのが目立つ女性が、そのお腹を突き出すように椅子に座っていた。薄化粧の目鼻立ちのはっきりした女性だった。髪はセミロングでパーマをかけていた。淡いブルーのマタニティドレ…

小説「真理の微笑」

四十二 一週間が過ぎた。 月曜日の午前中に、教授回診があって、それぞれの担当医が教授に説明をしていた。私の内臓の数値は、良くなってきてはいるが、まだ高いという事だった。特に腎臓と肝臓がまだ悪いようだった。心電図は安定しているという事だった。…

小説「真理の微笑」

四十一 午前七時に看護師に起こされるまで眠っていた。体温と血圧を測っていった。 午前八時に食事を済ませると、ラップトップパソコンを取り出した。昨日、真理子が持ってきたソフトをインストールし、自分が使いやすいようにカスタマイズした。 そのうち、…

小説「真理の微笑」

四十 夕食が終わった頃、真理子が病室に来た。私はセーフティーボックスの鍵を左手首から外して、パジャマのポケットに入れていた。真理子とキスをする時に首に回した手に鍵がぶら下がっていたのではまずいと思ったからだった。 真理子が「今日はどうだった…

小説「真理の微笑」

三十九 次の日、真理子が来て会社に行った後、午前十時頃に西野と遠藤が来た。昨日、伝えた事を内山に言ったのだろう。 二人を枕元に引き寄せて、まだ上手く話せない事を伝えてから「カード型データベースソフトの件なんだけれど」と切り出した。二人は私の…

小説「真理の微笑」

三十八 夕食が済んで、しばらくしたら真理子がやってきた。 大きな手提げ袋を両手に持っていた。今朝、渡したメモのソフトが入っているのだろう。 「大変だったんだから」という真理子に、「ありがとう、これで助かる」と言いながらキスをした。 「今日はど…

小説「真理の微笑」

三十七 昼食をとった後、午後二時からリハビリを行った。今日は平行棒に掴まって立つ練習をした。足腰が弱っているので、十回も繰り返すと息が上がった。 理学療法士は決して否定的な事は言わない。 「いいですよ。今日はこれで十分です。だんだん慣れていき…

小説「真理の微笑」

三十六 私は午前六時頃には目が覚めた。サイドテーブルに封筒が載っているのを見て、慌ててパソコン雑誌の間に挟んでテーブルの引出しにしまった。病院の窓口が開くのは午前九時だから、それまでは真理子に見つけられるわけにはいかなかった。真理子は朝食時…

小説「真理の微笑」

三十五 月曜日になった。 真理子が朝食後に顔を出し、午前九時前に会社に向かった。 午前中に、電気店から待望のラップトップパソコンなどが届いた。私は早速、業者に使えるように設置してもらった。壁の電話線の差し込み口から電話線をモデムの電話線の差し…

小説「真理の微笑」

三十四 真理子が買ってきてくれたアイスクリームはとても甘かった。しかし、それより真理子とのキスの方が遥かに甘かった。 「事故を起こしてからのあなたは変わったわね」 「そうか」 「キスがうまくなったもの」 「俺は変わっていないつもりだけど、もしそ…

小説「真理の微笑」

三十三 朝食は半分残した。 食事が済むと薬を飲んだ。看護師が膳を片付けながら、薬を飲んだか確認した。 看護師がいなくなると電話機を見た。夏美に電話がしたかった。ただ、声が聞きたかった。しかし、何を話していいのか分からなかった。 夏美は、また「…

小説「真理の微笑」

三十二 夕食を終えた。今日は土曜日だからリハビリはなかった。明日も日曜日だからない。 それよりも月曜日からの言語聴覚士との事が気になった。今は喉を痛めているが元のように話す事ができるようになるのか。そうすると声はどうなるのだろう。私は富岡で…

小説「真理の微笑」

三十一 真理子が戻ってくる前に看護師がやってきた。着替え用のパジャマを今日と明日の分の、合わせて二日分置いていった。明日が日曜だったからだ。その際、来週から言語聴覚士の所にも行く事になった事を伝えられた。どの程度話せるのか調べるのだと言う。…

小説「真理の微笑」

三十 看護師が体温と血圧を測りに来るまで眠っていた。起きても、少し頭がぼうっとしていた。看護師が出て行くとベッドに横になった。そこでまた少し眠ってしまった。 午前八時に朝食が運ばれてきて、再び起きた。 朝食をとっている時、真理子がやってきた。…

小説「真理の微笑」

二十九 夜、ベッドに入ってもなかなか眠れなかった。昼間聞いた夏美の声が耳に残っていた。 真理子が病室に入ってこなければ、もっと夏美の声を聞いていただろう。私が話さなくても、夏美が話してくれさえすれば良かった。 明日になったら、また電話をしよう…