2025-07-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか?

十八 次の日は、晴れた。宿賃を払うと、宿を後にした。 僕は台車を押しながら歩いた。 「雨の後は、清々しいですな」と風車が言った。 「そうですね」と僕は応えたが、公儀隠密に襲われなければですがね、と続けたくなったがその言葉は飲み込んだ。 きくは宿…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

十七 次の日も雨だった。 僕は下に下りていき、女将に今日も泊まると告げた。そして、昼は食べられるかと訊くと「ご用意はできます」と答えたので、「鴨南蛮が食べたいのだが、できるか」と尋ねた。 「板長と相談して、後で答えます」と言われた。 朝餉の膳…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

十六 きくはききょうがいるのでお汁粉を二杯頼んだ。僕は饅頭と串団子にした。風車はおはぎを五つ注文した。 「五つも食べられるのですか」と僕が訊くと、「いつもならもっと食べていますよ。これでも遠慮しているくらいです」と答えた。 「そうですか」 甘…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

十五 次の日、朝餉を早めにとって、少しくつろいでいると、使いの者がやってきた。 風車は刀を帯に差して、その者に従った。僕も定国を掴むとその後を追った。 宿の者には、また後で来ると告げて外に出た。 使いの者に風車は付いていった。その後を僕は追っ…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

十四 街道を歩いて行くと、団子屋が見えたので、きくに「入るか」と訊くと「はい」と答えた。それで、風車の方を見ると彼も頷いたので、団子屋に入ることにした。 椅子に座ると、「そういえば風車殿は酒を飲みませんね」と僕は訊いた。 「拙者はこう見えても…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

十三 朝餉は風車がいると楽しかった。まだ、昨日の火事の話をしていた。 おひつがすぐに空になった。おかわりをもらって、風車だけでなく、きくもききょうもよく食べた。僕もつられるように三杯目のおかわりをした。 朝餉が済んで一休みすると、宿を後にした…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

十二 朝餉の席で、風車と一緒に食べている時に、風車はきくを見て、「えっ、鏡京介殿の奥方ではないのですか」と味噌汁の椀を持ちながら驚いていた。 「そうですよ、わたしは鏡様の妻ではありません」ときくは言った。 「拙者はてっきりご夫婦かと思っていま…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

十一 つづら折になっている街道に出た。その角を曲がると、前方に十人ほどの侍が待っていた。 定国が唸った。敵だった。林の中から手裏剣が飛んできた。僕は定国を素早く抜いてそれらを弾き返すと、手裏剣が投げられてきた林の中に入っていった。それと同時…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

十 今日は湖畔を回るように街道を通り、湖を見ながらの旅だった。温泉宿が街道沿いに続いていた。 昼は蕎麦を食べた。 明日は、湖とも別れるから、今夜は湖畔の宿を取った。 湖の見える部屋は個室にすると高かった。ここでも一人一泊二食付きで六百文かかっ…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

九 林が途切れると眼下に雄大な湖が見えた。そこに向かって坂を台車を押しながら下って行った。 途中に甘味処があった。店の前の席に座った。店の者が品書きを持ってきたので、僕はお汁粉ときなこ餅を頼んだ。きくはぼた餅二つとお汁粉を頼んだ。お汁粉は半…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

八 宿場に着くと、個室であることが条件だったので、良さそうな宿を選んで入った。角部屋の個室を借りることにした。一人一泊二食付きで四百文だった。 台車から荷物を降ろして、部屋まで運ぶと交代で風呂に入った。 夕餉を食べて、布団に入ると、きくが寄っ…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

七 店を出て、少し行くと人だかりができている。 何事かと思って見てみると、敵討ちだった。敵を討ちたがっているのは、乳飲み子を抱えた女性とその子どもと思われる七、八歳の男の子である。敵と言われている方は、見るからに強そうな壮年の侍だった。 女性…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

六 次の日はよく晴れていた。朝餉を食べると、おひつに残っていたご飯でおにぎりを作った。それは僕が持ってきたラップに包んでビニール袋に入れた。 ラップは五本ほど長いものを買って持ってきたのだった。前回の旅(「僕が、剣道ですか? 4」参照)の経験…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

次回は、7月20日日曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 5」

五 ききょうのミルクを作ると、家老屋敷を後にした。 家老の屋敷を出る時、くれぐれも僕たちに関わらないように言った。もし、それが守れないなら、ここに戻ってきて、皆殺しにすると言った。 島田源太郎はしぶしぶ頷いた。道中手形と添え書きも書いてくれた…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

四 島田源太郎が戻ってくるには、時間がかかった。どうせ僕の話を鵜呑みにしたわけではないだろう。きっと、部屋住みの侍を起こして、僕を襲おうと思っているのだろう。 僕は彼らを縛るビニール紐を用意して待っていた。 襖が開けられると、三十人ほどの侍が…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

三 僕は誰かに強く揺り動かされた。それで目が覚めた。 目の前にきくがいた。 僕はホッとして、また意識を失いそうになった。 「京介様、本当に京介様なのですね」と耳元できくが言って、濡れた僕の躰に強く抱きついてきた。きくは泣きじゃくっていた。 しば…

小説「僕が、剣道ですか? 5

二 次の日が来た。僕は起きると、持って行く物を点検した。今度は殺すわけにはいかない人が多数いることに気が付いた。その時に縛る縄があればいいが、すぐには手に入らなかったらどうする。僕は考えた末、ビニール紐の塊とガムテープを持って行くことにした…

小説「僕が、剣道ですか? 5」

僕が、剣道ですか? 5 一 学年末試験が終わった。 僕は自分の能力を遺憾なく発揮して、いい成績を取った。富樫が「勉強もしていないお前が取れる点じゃないよな」と耳元で呟いた。 富樫は落第すれすれで進級したのだった。 学年末試験が終わって卒業式も終…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三十五 僕は病院のベッドの中にいた。 僕が目覚めたのに気付いたのは、母だった。すぐにナースコールした。 看護師がやってきた。 僕の様子を見ると、すぐに出て行って、女医を連れてきた。 女医は僕を診察して、「意識が戻ったようね」と言った。 「どれく…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三十四 次の日、朝餉の後に、きくとききょうを京太郎の眠る墓に連れて行った。 そして、花と線香を手向けてきた。 「ここにお前の弟が眠っているんだぞ」とききょうに言った。もちろん、ききょうに分かるはずもなかった。そして、ききょうに手を添えて、手を…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三十三 次の日、朝餉をとると、しばらくして出かけた。堤道場に行くためだった。 門の前をたえが掃いていた。 「今日は、堤先生はいらっしゃるかな」と訊いた。 「ええ、おります。昨日、鏡京介様がいらっしゃったことを話したら、残念がっていました。早く…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三十二 堤道場に行った。 門の所をたえが掃いていた。五年前と変わらなかった。 「たえ、いや、おたえさん」と声を掛けた。 たえは顔を上げると、鏡京介を見て、信じられないとでもいったような顔をした。そして、すぐに涙を流し、走り寄って来て、僕の手を…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三十一 風呂を出ると夕餉の支度がされていた。家老家では、夕餉は男性と女性で別の部屋で食事をすることになっていた。客として招かれたとしてもそれは変わらなかった。 大旦那様が上席に座った。その隣に今の家老である島田源太郎が座った。その反対側の上…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三十 翌朝、宿を早くに出ると、二里の道を急いだ。 そして、口留番所に来た。 僕は口留番所の手前の林で、ジーパンを穿き、安全靴を履き、着物で隠した。そして、通行する人の最後尾に並んだ。段々と順番が近付いてくる。僕はきくがおんぶしているききょうを…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十九 宿は川縁に建っていた。川湯もあると言う。 一階の隅の個室を頼んだ。一人一泊二食付きで四百文だった。 手ぬぐいと浴衣を持つと、脱衣所で着物とトランクスを脱いだ。 ききょうを受け取ると、僕は頭を洗い、髭を剃った。ききょうに頬ずりがしたかっ…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十八 きくとききょうの所に行き、風呂敷包みを持って山道を歩いた。 山道を抜けると宿場に出た。 宿を探した。個室を取った。温泉が出る宿だった。 早速、きくとききょうと入りに行った。頭を洗い髭も剃って、ききょうに頬ずりをした。ききょうを抱いて風…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十七 昼餉はヤマメにして、僕たちは山道を急いだ。 幕府の隠密は襲ってこなかった。 今回は定国に助けられた。定国には、怨霊が憑いているのだろう。それが僕の怒りと闘気に反応して、力を貸してくれたのに違いない。少しの間だったが、定国の霊に取り憑か…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十六 宿場に出ると泊まる所を探した。 個室で一人一泊二食付きで四百文の宿に泊まることにした。この宿も川湯だった。 部屋に入ると、僕はきくを抱き寄せて口づけをした。きくは驚いたようだった。このような口づけは初めてだったからだ。 僕は手ぬぐいと…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十五 朝餉をとったら、宿を出た。 この先は城下町になる。さすがに公儀隠密も襲っては来ないだろう。 だが、油断は禁物だった。襲っては来ないだろう、と思っている時が一番危ないかも知れないのだ。 さすがに城下町ともなると、賑わいも一際だった。 この…