2025-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 3」

次回は、6月2日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十 元旦に家に着いたのは、午前三時過ぎだった。帰りも大混雑の中だった。 きくは初詣が珍しかったのか、大興奮していた。 風呂に入っても「楽しかったです」と言っていた。 僕はすっかり疲れてしまったので、風呂から上がると、自分の部屋に上がっていき…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十九 十二月三十日は大掃除と決まっていた。朝から僕は大掃除の手伝いをさせられていた。窓拭きから納戸の整理まで、一日中、こき使われた。 きくは掃き掃除と拭き掃除に活躍した。 午後四時頃には、一通りの掃除は終わった。 その時、携帯が鳴った。出る…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十八 母からの買物リストを持って、再び安売りのスーパーに戻ってきた。 客は少なくなっていた。特売品はすべて売り切れていた。 仕方ないので、特売品ではなくてもリストにある物を籠に入れていった。ほとんどの物は買えた。 安売りのスーパーで買えなか…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

次回は、5月29日木曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十七 空き地で集団に囲まれていた。人数を数えると二十二人いた。 随分と、数を揃えたもんだと思った。 僕は、気付かれないように、携帯で彼らの写真を撮った。 「ここに来る途中で、他の奴らにも連絡したから、追ってやってくるだろう」とヘッド格の男が…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十六 家に帰ると、きくが玄関で待っていた。 「お帰りなさいませ」 「うん」 「沙由理さんとは、楽しかったですか」 それか、と僕は思った。 「沙由理さんは、待っていてくれたんですよね」 「ああ」 「それからデートをしたんですね」 「ああ」と言いなが…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十五 新宿南口には午前十一時過ぎに着いた。すぐに改札口に行かず、少し離れた所から沙由理を捜した。 沙由理は、待っていた。動物の毛の立った襟の白い皮のコートを着ていた。目立っていた。何人かの男が声をかけていたが、沙由理は断っていた。 すぐには…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十四 午前七時に目が覚めた。 「おはよう」と親父と朝の挨拶をした。このところ、僕の起きるのが遅かったから、朝、挨拶をするのが久しぶりのように感じた。 スクランブルエッグにハムとチーズとレタスのサラダ、それとトーストしたパンにコーヒーが今日の…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十三 その夜、夕食も済み、風呂に入ってベッドでゴロゴロしていると、携帯が鳴った。 「わたし、沙由理」 「誰からですか」ときくが訊くので、口に人差し指を立てて、静かにしていろ、という合図を送った。この合図は暇な時に教えておいたのだ。 「誰かい…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十二 携帯を見たら、富樫から電話が何度も入っていた。沙由理親子と会う時は携帯を切っていたのだ。 富樫に電話をした。 「昨日から何度も電話してんだぞ、ちった、出たらどうなんだよ」と言った。 「こっちもちょっと用があってな。出られなかった」 「大…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十一 火曜日は午前九時に起きた。朝食は食べなかった。食欲がなかったのだ。 きくが「元気がないんですか」と訊いてくれたが、そういうわけじゃなかった。 「ききょうはどうしている」と訊くと「眠っています」と答えた。 予防接種をした時、「何か変な症…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十 僕はくたくただったが、こんなことやあんなことがあったなんて言えやしない。 家に帰ると、真面目な高校一年生に戻っていた。というより、戻らざるを得なかった。 母はきくにいろいろなことを教えていた。本当に江戸時代から来たことを信じ始めているよ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十九 黒金不動産は高橋宏をつけていった時に見た会社だった。 場所は分かっている。しかし、まともな会社じゃないことも分かっている。沙由理は僕を陥れようとした女だ。ほっとけばいい、と思った。 このまま、何もかも忘れて家に帰ればそれで済む話だ。だが…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十八 土曜日は特に何事もなかった。 日曜日はクリスマス・イブだったから沙由理からデートの誘いがあった。当然、きくは機嫌が悪かった。そのきくを残して、新宿のとある百貨店で会う約束をした。 午前十時に沙由理と落ち合うと、その百貨店の開店と同時に、…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十七 金曜日だった。今日は、お祖母ちゃんの入所金が支払われる日だった。 その連絡を母は待っていた。午前十時頃、入金したという知らせが来た。これで一安心だった。後は、月曜日に入所するだけだった。入所する施設は市ヶ谷にあると言う。駅から十分ほど…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十六 ガラス屋が来て、玄関のガラスと、納戸と風呂場のガラスを入れ替えた。もともと割れにくいように中に針金が入っていたが、今度のはもっと強度が高い物だとガラス屋は説明した。代金を払って領収書をもらった。それを携帯で写して、保険会社に送信した。…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十五 寒くなってきたから、革ジャンパーの上にオーバーコートを着た。 オーバーコートには、武器はない。 ショルダーバッグを持つと結構重い。 きくとききょうを連れて、新宿御苑を散歩した。ここなら、黒金高校の連中に会う心配はなかった。ききょうは乳母…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十四 また、きくが玄関に待っていた。 「沙由理さんとのデートはどうでしたか」 「良かったよ。誤解も解けたし」 そう言うと、きくの機嫌は悪くなった。どうやら、僕は地雷原を踏んだようだ。 「良かったですね。楽しそうで」 「まあまあかな」 「お気を遣っ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

次回は、5月21日水曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十三 午後一時半前に家を出た。少し早かったが、新宿南口まで歩いて行くつもりだった。 十分ほど前に着いたが、沙由理の方が早かった。あまり歩くことをせずに、駅ビルでおやつを食べることにした。僕も沙由理もお昼は食べていなかったので、少しボリューム…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十二 「京介様、沙由理さんとのデートは楽しかったですか」 家に入るなり、玄関の廊下の上がり口の所に敷いてある小さなカーペットの上にきくが正座して、そう訊いた。 「楽しいも何も大変だったんだよ」と答えた。 「大変だったとは、何かあったんですか」 …

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十一 問題の日曜日が来た。 僕は午前八時に起きた。朝シャワーして、朝食を軽く食べた。歯を磨き、長袖シャツとセーターを着て、ジーパンを穿いた。髪を整えたら、九時を少し過ぎていた。まだ、時間は早かった。 財布に現代美術展のチケットを入れて、オーバ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

次回は、5月19日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十 この週末から冬休みに入る。 授業も身には入らなかった。 ほとんどの奴らが、スキー旅行に行くようだった。当然、富樫も行く。 僕だけが取り残されたような気分になった。 食堂でひとりまったりしていると、「今度の日曜日、空いてる」と絵理が訊いてきた…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

九 月曜日が来た。 今日は月一回の朝礼がある日だった。 それに僕にとっては最悪の日でもあった。何と、赤ちゃんを助けたことで表彰される日だった。表彰みたいなことは、して欲しくはなかったが、断る勇気もなかった。 結局、ずるずると朝礼を迎えてしまっ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

八 「止めろ」 僕はきくとききょうを路地の奥に押しやった。 周りから、何人かがきくとききょうを捕まえようとしていた。 その写真も携帯で撮った。写真を撮られたことは、奴らには分からなかったはずだ。 きくに最初に手を出そうとした奴の顔面を思い切りナ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

次回は、5月15日木曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 3」

七 次の日は日曜日だった。母は用があるとかで、朝早くから出かけていた。 晴れたいい日だった。きくは昨日買ってもらった服を何度も着替えて鏡に映していた。 「出かけたいなぁ」ときくは言った。 昨日の新宿での買物が楽しかったのだろう。 「そうだな、こ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

六 僕は撮った写真をクラウドストレージ(インターネット上にある保存場所)にアップロードした。携帯を奪われたり、壊されたときの保険だった。 こちらの顔を見られているから、彼らがこのまま黙っているはずはないと思った。ただ、すぐには見つけられない…