2025-04-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 2」

次回は、5月1日木曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十四 黒亀城には夕刻着いた。 すぐに城主の滝川劍持に、お目通りをし挨拶をした。 「よく来てくれた。待っておったぞ」と滝川劍持は言った。 家老からは「さあさあ、旅の疲れも湯でも浴びて癒やしてくだされ」と言われ、湯屋に案内された。 湯で躰を洗った…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十三 僕は風呂敷に包まれた懸賞金を前に、家老に「こんな大金、どこにしまっておいたらいいのでしょう」と訊いた。 家老は「うちの蔵に入れておけばいい」と言った。 「金蔵という金庫番がいてな、彼に言えば蔵を開けてもらえる」 「はぁ。でも、金が入り…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十二 道場に出るのは、久しぶりだった。 だが、此所でも山賊成敗の話をねだられた。 話さなければ、稽古にならない雰囲気だった。仕方なく、僕は何度目かの山賊成敗の話をした。 半月が過ぎ、一月が経とうかという頃に、夕餉の席で家老から、明後日、僕に…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十一 座敷に戻り、きくに「七百五十二両貰えるそうだよ」と言うと、「へぇー、七百五十二両ですか」と驚いた風もなく聞いた。その後で、「七百五十二両って言いました」と訊き返してきた。 「そう言ったろ」 「七百五十二両で間違いないんですね」 「うん…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十 次の日、僕は佐野助に山奉行にこのことを伝えるように言った。 僕は念のために村に残った。 湯を沸かしてもらい、昼間、躰を洗った。ついでに洗濯もした。山賊の返り血を浴びて、オーバーやセーター、厚手のシャツやジーパンが血まみれだったからだ。 …

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十九 一晩ぐっすり眠った。 洞窟は子どもたちでいっぱいだったから、女たちと外で寝た。女たちは寝られなかったようだ。 朝食を作る女たちと一緒に僕も村に降りていき、朝ご飯をたっぷり食べた。そしておにぎりも作ってもらった。女たちはおにぎりを沢山作…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十八 僕は後悔の念と、憤怒の思いが湧き上がった。 相手は最初は五人だったが、続々集まってきた。 もはや、嬲り殺している余裕はなかった。刀が金色に輝き出した。 相手が刀を振り下ろしてきても、かすりもさせずに斬り倒していた。刀に当たっても僕の刀…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十七 逃げ出していった男たちの報告で、事態は容易でないことが、山賊たちにもようやく分かったようだ。 僕はいったん林に逃げ込んだ。 竹水筒を取り出して、水を飲んだ。お腹も空いていた。 オーバーを隠してある所まで戻って、干し柿と干し葡萄を食べた…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十六 朝、目覚めると佐野助はまだ眠っていた。朝は寒かった。 山陰には、まだ日は当たっていなかった。山の上の方が明るかった。 「起きるぞ」と佐野助に声をかけた。 佐野助はブルブルと震えるように起き上がった。 僕は干し柿と干し葡萄を食べた。佐野助…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十五 屋敷に戻ると、明日の準備をした。 革手袋は、昨夜渡されたが、綺麗に縫われていた。 九月の下旬ともなると夜の山は寒い。なるべく温かい格好をして行くことにした。 シューズは念のため、もう一足も持っていくことにした。 きくが、餅と乾燥させた柿…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十四 山賊たちが今月下旬に飛田村を襲うとしたら、時間がなかった。 山奉行佐伯主水之介に会いに行った。 今までのいきさつを忌憚なく話した。 「それはおぬしが気にすることではあるまい」 「そうですが」 「自ら蒔いた種だ。刈るのは自分たちでする他は…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十三 「堤邸に行くんですね」 僕が草履を履こうとしたら、きくが後ろから、ききょうを抱っこしながら、そう言った。 僕はぴくんとした。その通りだったからだ。 「待っててくださいね」 きくも草履を持ってきて、足袋を履き、「わたしも一緒に行きます」と…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十二 堤竜之介の武家屋敷への引越しは翌月、早々に行われた。 堤道場には、師範代となった城崎信一郎が住み込むことになった。 「城崎信一郎殿が師範代に決まったことに、他の三人から文句が出ませんでしたか」と僕が堤に訊いたら、「いや、三人ともあの場…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十一 四日間はあっという間に過ぎた。 その間に、いい考えを思いついたわけではなかった。 しかし、今日、堤道場の師範代を決めると約束してしまっていた。出かけないわけにはいかなかった。 「浮かない顔をしていますね」ときくが言った。 「そうか」 堤…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十 三日間、堤道場には行かなかった。 祝宴や祝辞を述べる来客が多いと思ったからだった。城中にも登城したことだろう。 とにかく、遠慮していた。 しかし、四日目に堤道場から門弟の使いが来た。ぜひ、訪ねてきて欲しいという堤の要望だった。その門弟と…

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十九 風呂場でも、きくの説教は延々と続いた。 「堤先生を勝たせたかったんでしょ」 「そういう訳じゃないが」 「他にどういう訳があるんですか」 「いろいろだ。いろいろあるんだ」 「どういろいろあるんですか」 「あるだろう」 「例えば、おたえさんとか…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十八 審判である番頭の中島伊右衛門が張り上げた「鏡京介殿の負け」の声は辺りに響いた。 そして、次に響めきが起こった。意外な形で決着が付いたからだった。 僕は木刀を拾い「静かに」と叫んだ。 響めきが収まった。何が起こるのか、みんなが注視していた…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十七 御前試合の日が来た。 僕は着慣れぬ袴を穿き、城に向かった。 外の城郭を回り込んで、内庭に出た。広かった。 その中央にお殿様が背もたれのない椅子のようなものに座っていた。両側に重臣たちも同じように座っていた。 周りには、家臣がずらりと取り囲…

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十六 ききょうは可愛かった。 寝転びながら、その顔を見ていても、見飽きることがなかった。 両手を顔の近くに持って行き、何やら動かしている。何が可笑しいのか、笑っている。 ききょうを見ている顔を、きくはぐいと自分の方に向けた。 「ききょうばかりを…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

次回は、4月17日木曜日にアップの予定です。

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十五 門弟がいなくなった道場で、相川小次郎、佐々木大五郎、落合敬二郎、長崎三郎、島村時四郎、沢田熊太郎に稽古を付けた。 六人で半円を作らせて、正眼の構えから小手を狙わせた。六人順番に打たせて、すぐ次を打つように言った。 僕は六人相手にすべて小…

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十四 もう六月に入っていた。 二週間が過ぎた頃に、きくに陣痛が来た。取り上げ婆が呼ばれて、その時を待った。盥に湯が張られた。 一刻が過ぎた頃、赤ん坊の泣き声が聞こえた。 僕は、白い布に包まれた赤ん坊を抱き上げた。きくの言った通り、女の子だった…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十三 次の日も九十組の選抜試験があった。 僕はやはり道場を抜け出していた。そして山に向かった。道着を持って行った。お奉行との約束があったからだった。 屋敷と思っていた所が、山奉行の奉行所だった。 そこに顔を出すと、佐伯は「待っていたぞ」と言っ…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十二 選抜試験が始まった。 今回は五百四十名集まった。それらを百八十名ごとに三組に分けて、一日九十組を対戦させることにした。初日は対戦の組み合わせを決めるだけで終わってしまった。三組に分かれたので、対戦する日に道場に来るように言った。そして…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十一 きくに十両を渡すと、「こんなに」と言いながら、それをどこかに仕舞い込んだ。 「また辻斬りが現れるといいですね」と言った。 「おいおい、私の心配はしないのか」 「あなたがやられるわけがないじゃないですか」 「出かける前は心配していたように見…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十 屋敷の通りには、屋台が何台か並んでいた。 そこで侍が蕎麦を食べたり、おでんをつまんで酒を飲んでいたりした。 そこを通り過ぎ、少し行くと、暗い通りが続いていた。 「いませんね」と八兵衛が言った。 その時だった。遠くから「辻斬りだ」と言う声が聞…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

次回は、4月14日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 2」

九 道場に出た。 相川たちが寄ってきた。 「もう一度、お願いします」 そう言って頭を下げた。 僕は門弟を壁際に寄せて「見ておくように」と言うと、昨日して見せた素振りを相川たちにさせた。 今度は一歩、前に出るように言った。そして後ろから、手首のあ…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

八 二日後に鍛冶屋、源蔵の所に刀を取りに行った。 「これで妖刀は切れる。しかし、おぬしの持つこの刀もその妖気を吸うことになるぞ」 「そうなるとどうなります」 源蔵は僕の顔をじっと見た。 「普通は刀に囚われる。しかし、おぬしはそうはならぬようじゃ…