2025-03-01から1ヶ月間の記事一覧
三十 僕は、慣れない筆と紙で、状況を整理してみた。 今の藩主は病弱だが、側女に二歳になったばかりの男子がいる。しかし、二歳の男子では藩政は司れないから、それをやるのは、後ろ盾になっている側用人と大目付に四人の目付だ。それに対して、藩主の次男…
二十九 城から屋敷まで付けてくる者がいた。襲ってくる気配はなかったので、放っておいた。 風呂に入り、夕餉の時に島田源太郎や佐竹に今日の詮議について、話して聞かせた。 「大目付がそんなことを言っておったか」 「城内にいる御家老の身が心配です。島…
二十八 次の日の午前中、城より使いの者が来て、大目付より鏡京介に質疑があるとの伝言が伝えられた。 僕は、城に上がる支度をきくにしてもらい、伝言を伝えに来た者と一緒に登城した。 殿中に入る前に、若侍に刀を渡し、控えの間に通された。 襖が開けられ…
次回は、3月31日月曜日にアップの予定です。
二十七 朝、道場に行けば、小手の次に胴、突きそして面の打ち方を教えた。そのうちに、連続技も教えるつもりだった。 一の日が来たので、僕は堤道場に行った。 たえが門の所で待っていて、「家に寄っていきますか」と言うので、「道場の稽古風景を見学させて…
二十六 朝餉の後、道場に行くと、前進しながらの素振りをしていた。数日の間に、皆の動作が素早くなっていた。 相川と佐々木を呼んだ。 「お前たちは掛かり稽古をしろ」 二人は掛かり稽古の意味がわからないようだったので、説明をした。元立ちといわれる者…
二十五 相手の数は増えてきていた。 「鏡殿」と佐竹が言った。 「ご心配、無用。まだ、数が足りていません」 「そんなことを言っても、もう十人はいますぞ」 「十人は、一人と同じことです。全員を成敗しなければ、この先、やっかいごとは続くでしょう」 「…
二十四 翌日、道場に行くと、どこで知り得たのか、龍音寺の噂で持切りだった。 噂話はだいぶ大袈裟になっていた。こういう話は大袈裟に伝わるものなのだろう。 僕がいくら修正しようとしても、余計に悪くなっていった。 午後になって、家老が横手門の前で襲…
二十三 朝餉の後は、家老はすぐに城に戻っていった。 僕は島田源太郎に、きくを連れて町に出てもいいか、尋ねた。 「昨日の父の話を気にしているのか」と訊かれた。 「そういう訳ではありません」と答えたが、家老の嫡男だけあって、なかなか鋭いなと思った…
二十二 道場は活気づいていた。百人を二組に分けて、一日置きに五十人ずつが道場に稽古に来ていた。 選抜試験をしたためか、緊張感があった。 彼らは素振りの練習をしていた。場所がないため、同じ位置にいての打ち下ろしだった。 僕は、一度、練習を止めさ…
二十一 二週間ほどが経った。十五の日が来た。道場が休みの日だった。 僕は一人で町に出た。 堤道場がどうなっているのか、見てみたいと思ったのだった。 道場の近くに来ると、中から稽古をしている音が聞こえてきた。門の所に立っていると、たえが来た。 「…
二十 次の日、道場に行くと、勝ち残った百十七人が揃って待っていた。 僕は神棚に一礼をして、その下に座った。 「これから言うことをよく聞いてくれ。選抜試験は、今回一回きりではない。三ヶ月に一回行う。次からは今、道場にいる者も試験を受けてもらう。…
十九 次の日も選抜試験は、朝早くから始まっていた。今日で一通りの対戦は終わる。それでも百十七人が残る。 明日は道場は休みの日だから、明後日はその百十七人が戦う。それでもその日に入門者は決まらない。翌日、もう一度戦って、ようやく入門者が決まる…
次回は、3月24日月曜日にアップの予定です。
十八 朝餉の後に道場に行くと、もう人が集まっていた。 僕が道場に入ると「選抜試験はまだですか」と質問された。 「今しばらく、待て」 一番年長の者を呼び、「何人ぐらい集まっている」と訊いた。 「二百人ぐらい集まっています」 「昨日の倍じゃないか」 …
十七 祝宴が始まる前に風呂に入った。そして、祝宴に着て行く着物をきくに着せてもらった。 まもなく祝宴が始まった。 僕が最後に入っていき、家老の嫡男、島田源太郎の隣に座らされた。その時には盛大な拍手とかけ声が沸き起こった。 きくはその声と拍手の…
十六 早朝だった。 昨夜もきくとは交わらなかった。ただ、抱いて眠りはした。 きくはまだ眠っていた。起こさないように、きくから離れた。 立ち上がると躰が軽い。 毒の影響はすっかり無くなっていた。 障子を開けて廊下に出ると、まだ月は低く浮かんでいた…
次回は、3月18日火曜日にアップの予定です。
十五 前の晩はきくと口づけをしただけで眠った。 きくを抱けるほど躰は回復していたわけではなかった。 しかし、朝起きると、自分で半身を起こせるだけでなく、まだ少しふらついてはいたが、立ち上がることもできるようになっていた。 きくがそんな僕を見て…
十四 きくと二人だけになるとホッとした。 横になろうとした時に股間がもごもごするので、手を当ててみた。おむつをしていた。 三日三晩、意識を失っていたのだから、下の世話は大変だったろうと思った。 「済まなかったね」と呟いていた。 「何ですの」とき…
十三 「先生」と看護師が言った。 「どうした」 「血圧がどんどん低下しています」 「何」 医師は聴診器を僕の胸に当てた。そして「血液、採取」と叫んだ。 看護師は血液を採取する道具を取りに病室から出て行った。 その間に医師が「面会人は病室から出て行…
十二 あの老人の言うように躰を動かすことができなくなったわけではなかったが、動きが緩慢になったのは事実だった。何としても催眠術を解かなくてはならなかった。 このままでは戦えなかった。 僕は、とにかく身を隠す場所を探した。 庖厨に出たので、その…
十一 荒れ寺が遠くに見えてきた。 先発隊が偵察に行ってきたところ、連中は起きてきたばかりのようで、全員かどうかは分からないが、ほとんどの者が寺の中にいるらしいということだった。 ここからは静かに近寄っていかなければならなかった。 もう少し近寄…
十 夕餉の時に、明日の盗賊討伐の話を島田源太郎にした。 早朝出発することも伝えた。 「わかった。大変だろうが、くれぐれも頼み申す」と頭を下げられた。 「失敗はしません」と答えた。何の勝算もあるわけではなかった。 その夜は激しかった。きくが声を上…
九 討伐隊の面々を道場に集めた。 「不満かも知れないが、この討伐にあたっては私が指揮を執る」 佐竹から聞いていたらしく、一同は頷いた。 「では、これから明日の作戦会議を開く」 僕は懐から寺の見取り図を出して広げた。 「見取り図が見られるように、…
八 朝が来た。 目が覚めると、枕元に彼女がいた。よく見ると、可愛かった。だが、まだ十四歳だった。十四歳の女の子を抱いてしまったのだ。 「お目覚めですか」 「ああ、おはよう」と言うと「おはようございます」と返してきた。 「今日も、いい天気ですね」…
七 朝餉の後、庭で木刀を振るっていると、迎えの若い者が来て、道場に連れられていった。僕はすっかり道場主の待遇だった。昨日は三十人ばかりだったのが、今日は増えて、倍の人数に膨れ上がっていた。当然、道場には全員入って座ることができなかった。十人…
六 「どうなんです」 僕の母が医師に訊いた。 「脳のMRIを取りましたが、どこにも異常が見られません。自発的に呼吸もしています。どうして意識が回復しないのか、わかりません」 医師はそう答えた。 僕は家老屋敷では、客人扱いを受けていた。することが…