2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧
十三 午後九時から二時間パトロールをした。 午後五時から飲んでいるという男性の高齢者が酔い潰れて道路に寝ていたので、介抱して自宅まで送り届けた。そのことを日誌に書いた。 午前一時半に北村巡査が来たので引継ぎをして、西新宿署に向かった。 西新宿…
十二 次の日、午前八時に剣道の道具を持って、家を出ると、西新宿署に着いた午前八時半に携帯に電話がかかってきた。 「山岡です。おはようございます」 「おはようございます」 「滝沢工業の一室から石井和義さんの指紋と毛髪が出ました。飯島明人、中本伸…
十一 それから十五分ほどして、山岡と他に二人の刑事が来た。 「失礼します」と言って、三人は須藤家のお茶の間に上がってきた。 山岡が座敷に座ると、警察手帳を見せて、「わたしが西新宿署捜査一課の山岡賢次です」と言った。続いて、次の刑事が「わたしは…
十 家に戻ると、きくとききょうと京一郎が出迎えてくれた。 すぐに風呂に入った。ききょうと京一郎も一緒に入った。 「プリントはもうやったのか」と訊いた。 京一郎は「うん、やった」と言った。 ききょうは「まだ、半分残っている」と言った。 「そうか、…
九 家に着いた。 風呂に入って着替えると、ビールを飲みながら、録画してあったテレビのニュースを見た。きくとききょうと京一郎は先に夕食を済ませていた。今日は剣道の練習があるから、遅いと言ってあったからだ。 ニュースでは、前川の関連会社からも、一…
次回は、8月13日火曜日にアップの予定です。
八 月曜日は剣道の稽古日だった。 剣道の道具を持って、西新宿署に向かった。制服に着替えるためと、指示や報告をするためだった。 午前九時に西新宿署に着いた。係員からは特別な指示はなかった。そのまま、交番に向かおうとすると、係員が「剣道の道具は置…
七 家に帰った。 きくとききょうと京一郎が出迎えてくれた。子どもたちは土曜日で休みだったのだ。 僕はきくに手伝ってもらって着替えると、風呂に入った。ひょうたんはきくに気付かれないように机の引出しにしまった。 係員が今日家宅捜索があると言ってい…
六 昼食の後、自室の机に座って、石井和義の映像をもう一度見ることにした。西新宿公園にいた時は早送りしていたのと、拉致されてからのしか見ていなかったからだ。 石井和義が使途不明金に関わっていたのかどうか確かめた。しかし、この半年分の映像を見た…
五 僕は一旦、映像から離れた。時計を見ると、午後十一時半だった。すぐに交番に戻った。 交番には、中年の男性が来ていた。 「ちょうど、良かったぁ」とその男性は言った。 「あなたは」と僕は訊いた。 「中西徹です。千人町二丁目に住んでいます」 「どう…
四 次の日は、午後五時から午前一時のローテーションなので、午後五時に西新宿署に行った後、午後五時半に交番に行き、引継ぎをして勤務についた。もちろん、ひょうたんは持ってきていた。ズボンのポケットに入っている。 夜、十時頃に西新宿公園にパトロー…
三 翌日は、優勝杯と楯と賞状を持って西新宿署に向かった。千人町交番所の管轄は西新宿署だった。西新宿署の署長に全国警察剣道選手権大会の報告をした。 署長へ報告すると、満足そうな顔をした。広報課の人たちも来ていて、署長との記念写真も何枚か撮った…
二 行方不明者届が出ている石井和義は、四日経ってもまだ見つかってはいなかった。その間、妻の繁子が交番を毎日訪ねてきては、その後の様子を訊いていった。交番としては五十三歳の年齢の男性の事故・事件報告がなかったので、「きっと無事でいますよ」と言…
僕が、警察官ですか? 1 麻土 翔 一 僕は、西日比谷高校を卒業した後、国立東都大学に進学した。そして法学部に進級し、三年生の時に司法試験予備試験に合格し、司法試験も合格した。 一方、大学四年の時に受けた国家公務員採用総合職試験にも合格し、卒業…
三十六 三学期になった。 僕は、今年で卒業していく剣道の先輩三年生、十三人に対して、一人一人対戦していった。彼らにとって、これが最後の部活だった。僕との対戦は彼らからの要望であり、僕からの餞別だった。 一対一で負けることはなかった。そして、気…
三十五 部活には、週に一度顔を出し、五対一の対戦だけをすることにした。部員たちがそれを望んでいることが、富樫の話から分かったからだ。監督も了解してくれた。 部員たちは、五対一で戦うのだから、何としてでも僕から一本取りたいと思っていた。そこで…
三十四 母は、その後も、僕やきくやききょう、京一郎の将来のことを話した。伝えたいことをこの際だから、一切伝えておこうとしたのだろう。 そして最後に「それは京介、あなたが決めることよ」と言い切った。それで話は終わった。 僕は母がこれだけ考えてい…
三十三 僕はテーブルについた。きくはコーヒーと自分のお茶を入れにキッチンに向かった。 母は顔を上げて、僕を見た。 いつもの母だった。 きくがコーヒーを母と僕の前に置き、自分のところにはお茶を置いた。きくは僕の隣に座った。 母はコーヒーに口をつけ…
三十二 沙由理とは、二日後に、新宿のカフェで会った。通りを歩いている時は、人にじろじろ見られる。沙由理はそれを楽しむかのように腕を絡ませ、肩に頭を預けてきた。 「すっかり有名人ね」と沙由理は言った。 「楽しそうに言うな」 「それはそうよ。彼氏…
三十一 沙由理からは、昨日から沢山のメールが来ていた。僕はそれに一度だけ、ありがとう、と返信した。 今日のメールにも朝刊の記事のことが書かれていた。昨日のメールは、当然のことだが、テレビニュースのことだった。 僕はメールで、『記者会見ではほと…
三十 監督質問の答えは、監督の適当ぶりがよく表れていた。僕が部活には、ほとんど出てこないのにもかかわらず、毎回来ているように言った。 壇上にいた部員はどう聞いていたのだろう。 とにかく、今回の優勝は稽古の賜ですと言い切った。そして、いかに稽古…
次回は、8月5日月曜日にアップの予定です。
二十九 父も早めに帰って来たので、みんなから僕のインターハイの優勝を祝ってもらえた。 午後七時のニュースにも、インターハイの結果が流された。特に、個人男子優勝は都立高校初ということで、結構大きく放送された。 これはビデオに撮っておかれることに…
二十八 沙由理が来て、手を差し出した。僕はその手を握って、強く振った。 沙由理はマスク越しに風邪声で「おめでとう」と言った。後は、部員たちが寄ってきたので、後ろに離れた。 カメラマンが大勢やってきて、監督と並んだ写真を沢山撮られた。 それから…
二十七 準々決勝は、小手が二本決まって、僕が勝った。 と同時に女子応援団の応援が始まった。凄まじかった。 その後ろで、沙由理が盛んに手を振っていた。マスクを下ろして口を開いていたから、何か叫んでいたのだろう。だけれど、応援団の応援にかき消され…