2022-01-01から1年間の記事一覧

小説「僕が、警察官ですか? 3」

六 どれだけ時間が経っただろう。何人かがトイレに出入りするのが分かった。僕は個室の中で、息をひそめていた。 やがて、ひょうたんが震えた。あやめが帰って来たのだ。 念のために時間を止めた。 「あやめ、どうだった」と訊いた。 「多分、山田宏の頭の中…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

五 月曜日だった。今日は、西新宿署に行って剣道をする曜日だったので、剣道の道具を持って、家を出た。 黒金署に着くと、山田の取調は今日も続いていた。 僕は安全防犯対策課に入ると、デスクに着いた。 緑川が自分の席から僕に向かって、「取調は難航して…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

四 捜査一課が、こちらが渡した情報から、重要参考人を割り出すことは時間の問題だった。 だが、割り出された重要参考人が、犯人でないことを僕は知っている。どうすればいいのだろう。そればかりを考えていた。 「課長」と緑川が呼んだ。顔を上げると、緑川…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

三 鑑識は家の内部の焼け具合が激しいことから、火元は最初は天麩羅鍋の油が燃え出したものと考えた。それと、もう一つは居間の新聞である。居間も激しく燃えていた。そこには新聞紙が積み上げられていた。煙草の吸い殻も見つかった。ここも火元と見られた。…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二 僕は次の日、机からひょうたんを出して鞄に入れた。今日、黒金署に行き、安全防犯対策課に顔を出したら、被害現場に行くつもりだった。その時、ひょうたんをズボンのポケットに入れて行こうと思っていた。 自宅を出て、黒金署の安全防犯対策課には、ちょ…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

僕が、警察官ですか? 3 麻土 翔 一 新年度になった。 ききょうは小学五年生で、京一郎は四年生だった。今日も元気よく、学校に行った。 僕は、その後で家を出た。家から歩いて三十分ほどにある黒金署に行くためだった。僕はその署の安全防犯対策課の課長で…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十五 西新宿署から自宅まで歩いて帰った。途中で、携帯で少し遅くなった旨を知らせた。午後六時四十五分に自宅に着いた。 玄関には、きくとききょうと京一郎が出迎えてくれた。心理的に疲れていた僕には、この瞬間がどれほど心安まることか。 寝室できくが…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十四 僕は取調室に入ると、芦田の座っている机の前の椅子に座った。 僕は時計を見て、「二〇**年**月**日、午後三時四十二分、芦田勇に対する取調を再開します」と言った。 芦田は「あんただ。あんたでなければ、俺の気持ちはわかってもらえない」と…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十三 僕は「では、次の事件にいきましょう」と言った。 「あなたは、二〇**年十二月十八日月曜日、午後七時四十分に会社を出ると、駅前の定食屋****で焼き肉定食を食べました。これも、売上伝票を調べれば分かることでしょう。それから、新宿から来…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十二 記憶を鮮明に呼び起こす映像に、芦田勇は震えた。すでに冷静ではいられなくなっていた。机の上で頭を抱えていた。 「あなたは、二〇**年九月**日に、秋田で行われたビジネスショーで***開発株式会社の専務からスカウトされましたね。それで、…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十一 午後一時になった。取調室に芦田が刑事に付き添われて入ってきた。腰縄と手錠が外されて、机を挟んで僕の前に座った。 僕はマイクに向かって「二〇**年**月**日、午後一時二分。芦田勇に対する取調を再開します」と言った。 そして、僕は「最初…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十 腕時計を見ると、正午を過ぎたところだった。 ズボンのひょうたんが震えた。 あやめが帰って来て「あの後の映像を送ります」と言った。 「少し待ってくれ。これからお弁当を食べるから。食べ終わったら、教えるから、そうしたら、送ってくれ」と言った…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十九 取調官が机の向こう側にいた。マイクに向かって、「二〇**年**月**日、午前十時五分。これから取調を開始します」と言った。 芦田勇は椅子に足を組んで座っていた。 取調官はまず被疑者の氏名、生年月日などの人定質問を行い、今、取調を行って…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十八 午前七時に起きた。 昨日というか、今朝の四時に寝た。睡眠時間は三時間だった。 髭を剃り、歯を磨き、顔を洗った。 朝食はお茶漬けにした。今朝四時まで飲んでいた時、少しつまみものを食べたので、あまりお腹が空いていなかったのだ。 その最中だっ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十七 僕は起きると、午前一時半だった。 ベッドから出て、ダイニングルームに行った。食器棚を開けて、グラスとウィスキーを取り出した。冷蔵庫から氷をグラスに入れると、ウィスキーを注いだ。 きくが起きてきた。 「何か作りましょうか」 「いや、いい」…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

次回は、8月15日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十六 ベッドに入った僕は、芦田が***開発株式会社の北府中市の支店から、新宿二丁目にある***ビルの五階と六階にある本社に移動になった経緯を再生していた。 それは昨年の新年会のことだった。芦田は専務に酒を注ぐときに、耳打ちをされた。 「まだ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十五 僕はきくの注いでくれたビールを飲んだ。 だが、また事件のことに頭は傾いていく。 芦田は、明日も川村が同じ電車に乗ったのなら、もはや、それが川村の運命なのだと思った。自分に絞殺されるのだ。川村はそのために生きてきたのだ、と芦田は思った。…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十四 僕が歩いて西新宿署から自宅に帰ったのは、午後七時頃だった。 きくとききょうと京一郎が玄関で出迎えてくれた。 僕はホッとした。この一日の嫌な思いが消える気がした。 すぐに風呂に入ることにした。京一郎が一緒に風呂についてきた。 京一郎が自分…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十三 芦田勇は北府中市の北府中駅から歩いて五分の所にある会社に行くために、北府中駅に十分で行ける椿ヶ丘駅の近くのマンションの三階三〇三号室を借りた。自転車は秋田から持ってきた。買物に行くのに便利だったからだ。本当は別の目的があった。獲物を…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十二 犯行の後、自宅に戻ると、余りにも運動靴が汚れているのでビニール袋を持ってきてその中にハンカチとロープを一緒に入れた。それは他のゴミと一緒にゴミ出しの日に出すつもりだった。 それから、着替えを持って風呂場に行った。ポロシャツを脱いで、…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十一 昨日も子鹿幸子はいつも通りに、家に帰っていった。その後を追いながら、明日こそ、殺してやると誓った。 そして、六月二十二日水曜日が来た。朝から、帰ってきた時の準備をして、家を出た。 会社に着いても思うことは、子鹿幸子のことだけだった。そ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十 僕はクラクラとした。 事情聴取は続いていた。芦田勇はのらりくらりと刑事の質問をかわしていた。 ここから見ていると、怒りが湧いてくる。中島明子さんを絞殺したのは、お前じゃないか、と怒鳴りたくなる。 事情聴取では、芦田勇の五月十三日水曜日の…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十九 中島明子が南秋田駅で降りる時間は、ほぼ一定していた。午後七時四十五分だった。それは秋田駅から南秋田駅方面に向かう電車の本数が少なかったからだ。一本乗り遅れると、三十分は待つことになる。一時間に二本しか走っていなかったのだ。当然、乗る…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十八 刑事が「これから事情聴取を始めます」と言った。この事情聴取は録画されているのだろう。 「まず、あなたの名前と生年月日、住所をお答えください」と言った。 男は「芦田勇、****年九月八日生まれ。住所は……」と言った。 僕は暗い部屋の中で、…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十七 僕は呆然とする西森に言った。 「被疑者を任意同行するんですよね」 「そう聞いていますが。鏡警部もいたでしょう」「ええ、分かっています。それで、これだけ詳細に話したのには、理由があるのです。私の警察官の勘というものを信じて欲しいという願…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十六 安全防犯対策課に戻ると、緑川に「これから、西新宿署に行くことになった。そのまま自宅に帰ることになるかも知れないので、後のことはよろしく。それから、交通安全課に今日が水曜日だから、パトロールを強化して欲しいと申し入れてくれ」と言った。…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十五 僕は、警察のデータから過去に起きた女性絞殺事件を調べたことを話した。その中で、引っ掛かったのが、秋田で起こった二件の絞殺事件だった。 僕はこの土日に、秋田の男鹿に旅行に行ったことを西森に話した。そして、昨日、事件の起こった西秋田市の…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十四 東京駅には、午後八時三十二分に着いた。自宅にいれば、もうとっくに夕食の時間だった。新幹線の中で売り子が来たので、弁当を買って食べようと思ったが、昼間も弁当だったから、子どもたちに可哀想な気がした。東京駅から四谷三丁目駅までは三十分ほ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十三 しばらく待っているとひょうたんが震えた。 「読み取りました」とあやめが言った。 「だったら、映像を送れ」と言った。 「はい」と答えた。 映像が頭の中に入り込んできた。クラクラとした。しばらくすると、それに慣れ、そして落ち着いた。 被害者…